医療保険って必要?加入の必要性や相場感を解説
新型コロナウイルス感染症の流行で、改めて医療保険の加入を検討する人もいるのではないでしょうか?病気やけがで入院したときの給付金は助かるけれど、保険料の負担も気になります。「医療保険って必要?」という疑問も湧いてくるかもしれません。この記事では、医療保険の基礎知識や必要性、上手な選び方について解説します。
医療保険の種類と基礎知識
病気やけがで入院したときに給付金が受け取れる民間の医療保険に加入している人の割合は73.1%です。多くの人が加入している医療保険ですが、内容を理解しているでしょうか。ここでは医療保険に関して知っておきたい基礎知識を解説します。
医療保険とは?
医療保険は、病気やけがで入院するリスクに備える保険です。どの商品にも共通する基本的な保障は入院したときに日数に応じて給付される入院給付金と、手術を受けたときに受け取る手術給付金です。
入院給付金の仕組み
入院給付金は、入院1日あたりに給付される金額(入院日額)に入院日数を掛けて計算します。
給付される入院日数には上限があり、60日・90日・120日などから選択します。最近では短期の入院が増えているため、入院日数が短い場合(10日以内など)は定額の一時金を給付する商品も登場しています。
手術給付金の仕組み
手術給付金は、所定の手術を受けたときに支払われる給付金です。対象となる手術の種類は、保険会社によって若干異なります。手術給付金の一般的な計算式は「入院給付金日額×所定の給付倍率」です。給付倍率は、「手術の種類」「入院か外来か」で決まるなどのパターンがあります。
医療保険のその他の保障内容
一般的な医療保険には、入院給付金・手術給付金以外に次のような保障があります。保障は外せないもの、任意のオプション(特約)など、商品によってさまざまです。
通院給付金 | 医療保険の通院保障は、入院後の通院を保障するタイプがほとんど。入院を伴わない通院は保障されない。 |
先進医療保障 | 厚生労働大臣が定める高度な医療技術を用いた治療(健康保険の対象外)の実費を給付。 |
がん診断給付金 | がんと診断されたときに、まとまった一時金が給付される。 |
特定疾病(三大疾病)給付金 | がん・脳卒中・急性心筋梗塞の三大疾病にかかったときに一時金が給付される。 |
就業不能保障 | 病気やけがで働けない状態が続いたときに給付される一時金や年金。 |
医療保険の種類
医療保険は、保険期間や貯蓄性の有無でさまざまな種類に分かれています。
保険期間 |
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保険料払込期間 |
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保険の対象者 |
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貯蓄性の有無 | 掛け捨て:解約しても返戻金がないタイプ |
貯蓄型:解約すると期間の経過に応じた返戻金があるタイプ、または一定の年齢になると使わなかった分の保険料が戻ってくるタイプなど |
医療保険の保険料相場は?
医療保険に加入するときに、気になるのは保険料でしょう。ある保険会社の医療保険の保険料を紹介します(2021年11月現在)。保険料は商品選びの要素ですが、あくまで参考にとどめ、保険料だけで選ばないようにしましょう。
入院日額:10,000円
手術給付金:入院中の手術20万円、外来の手術5万円
先進医療:あり
保険期間/保険料払込期間:終身
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
25歳 | 2,346円 | 2,873円 |
30歳 | 2,741円 | 3,098円 |
35歳 | 3,247円 | 3,317円 |
40歳 | 3,906円 | 3,665円 |
45歳 | 4,719円 | 4,220円 |
50歳 | 5,745円 | 4,967円 |
55歳 | 6,972円 | 5,914円 |
60歳 | 8,408円 | 7,091円 |
男女の保険料差は、保険会社によってさまざまです。年齢が高くなるほど、保険料の上り幅が大きくなります。また、健康なうちでないと加入できないことも頭に入れておきましょう。
がん保険と医療保険の違い
がんは一般の病気にはない特徴があるため、がんの保障に特化したがん保険があります。一般的ながん保険の保障のメインは、診断給付金という一時金です。診断給付金はがんと診断されると、まとまったお金が支払われます。受け取った給付金の使い道は自由なため、治療費以外にも使える点が大きな特徴です。がんの治療は通院で行われる場合が多く、費用も高額なために入院給付金よりも診断給付金が有効と考えられています。
医療保険に入らないとどうなる?
医療保険には入ったほうがいいのでしょうか。入院したときにかかるお金と受け取れる給付金から考えてみます。
病気やけがで入院すると1日いくらかかる?
病気やけがで入院すると、治療費の自己負担以外にさまざまな支出が発生します。家族の病院への交通費や外食費など、ふだんはない支出が考えられます。それだけでなく、収入が減る可能性も考えておかなくてはなりません。治療費は高額療養費などである程度カバーできても、収入減を補うのは難しい人もいます。そこで、入院時の自己負担費用と逸失収入(入院したために得られなかった収入)の合計をチェックしておきましょう。次の表は過去5年以内に入院した人の、1日あたりの自己負担費用と逸失収入の合計の分布です。
5,000円未満 | 6.7% |
5,000円以上7,000円未満 | 6.4% |
7,000円以上1万円未満 | 9.1% |
1万円以上1万5,000円未満 | 21.3% |
1万5,000円以上2万円未満 | 9.8% |
2万円以上3万円未満 | 14.6% |
3万円以上4万円未満 | 10.1% |
4万円以上 | 22.0% |
平均 | 2万8,400円 |
出典:生命保険文化センター「生活保障に関する調査」/2019年(令和元年)より
医療費の自己負担と逸失収入を合計すると1日1万円以上になる人の割合が、80%近くになりました。また、4万円以上の人が22%となっており、長期の入院の経済的ダメージに備える必要がありそうです。
医療保険で受け取れる給付金の額
入院時の経済的ダメージに対し、医療保険で受け取れる金額はいくらでしょうか。1日あたりの入院保障額の平均は男性で1万900円、女性で9,100円です(生命保険文化センター「生活保障に関する調査」/令和元年より)。仮に入院1日あたり1万円受け取るとして、1日あたりの自己負担費用と逸失収入の平均を入院日数別に確認してみましょう。
入院日数 | 自己負担費用と逸失収入の合計 | 受け取る給付金 |
---|---|---|
10日 | 28万4,000円 | 10万円 |
30日 | 85万2,000円 | 30万円 |
60日 | 170万4,000円 | 60万円 |
医療保険に加入していない場合、医療費や収入の不足分は生活費や預貯金からまかないます。単純計算ではありますが、入院が長期化したときの経済的負担は無視できません。全額を補えなくても医療保険からの給付があれば、大きな助けになると考えられます。
がんの場合は?
治療費が高額になりやすいがんの場合はどうでしょうか。厚生労働省「令和元年度医療給付実態調査」によると、がんで入院した場合にかかった医療費の平均は、以下のとおりです。
1入院の医療費 | 通院1日あたりの医療費 | |
---|---|---|
男性 | 20万7,627円 | 1万1,978円 |
女性 | 21万719円 | 1万576円 |
平均 | 20万9,173円 | 1万1,277円 |
がんの治療は通院で行われるケースが多い傾向にあります。入院・通院ともに逸失収入を考える必要があり、一般の病気やけがよりも保険の必要性が高いといえます。
医療保険の必要性はケースバイケース
病気やけがでの入院日数は短期化しています。厚生労働省の「平成29年患者調査」によると、入院日数14日以内の割合は病院で68.2%、一般診療所で83.5%です。10日以内の入院であれば、医療保険は必ずしも必要ではないかもしれません。しかし、家計状況や利用できる社会保障は人それぞれです。医療の変化に伴い、基本の入院給付金以外の保障が付けられる医療保険も増えました。自分にとって必要な保障は何かを考えて保障内容を最適にすれば、医療保険の利用価値は高まるでしょう。
医療保険の選び方
試算や預貯金が十分で病気やけがで、長期入院をしても経済的な不安のない人に医療保険は必要ありません。しかし、それ以外の多くの人にとって医療保険は有益です。最後に、タイプ別に医療保険の上手な加入のしかたを紹介します。
自営業者
会社員や公務員と違い、頼れる社会保障が少ない自営業者には医療保険の必要性は高いといえます。会社員や公務員が病気やけがで長期に休業すると、健康保険から傷病手当金という給付を受けられます。しかし、国民健康保険には傷病手当金がありません。そのため、自営業者は入院の有無にかかわらず、働けないとは収入がなくなることを意味します。自営業者は働けないリスクまでを考え、医療保険に就業不能特約を付けるなどの対策が必要です。
子育て世代
教育費がかかる子育て世代の人も、医療保険の加入が有益です。健康保険には、限度額以上の医療費が戻ってくる高額療養費制度があります。高額療養費の限度額は収入に応じて決まり、年収約1,160万円以上の人なら少なくとも月額25万2,600円までは自己負担をしなければなりません。年収1,000万円以上でも教育費のかかる世代では、家計は楽ではないでしょう。教育費のかかる家庭で夫と妻のどちらかでも入院をしたら、外食費など医療費以外の支出も想定されます。子育て中であれば男性も女性も、最低でも入院費がまかなえる程度の医療保険には加入しておきましょう。
独身の人
一生独身で過ごす予定の人は、入院したときに頼る人がいないケースもあります。家事代行などを頼むことも考えられ、そのような費用の負担が心配なら医療保険に加入しておきましょう。保険料負担ができれば60歳までなどの短期払いを選択し、現役中に払い込みを終わらせることもできます。
貯蓄のあまりない人
貯蓄があまりない人は保険料の負担が難しくても、医療保険の必要性が高いといえます。特約などをあまり付けず、入院時の支出がまかなえる最低限の保障を確保しましょう。保険料を抑えたい人は、定期型の医療保険も選択肢の1つです。若いうちは保険料の安い定期型で保障を確保し、収入が安定したら終身タイプに入り直すとよいでしょう。
まとめ
健康保険には高額療養費制度もあり、民間の医療保険は必要ないという人もいます。しかし、医療を取り巻く状況や家族状況などの変化もあり、必要性は人それぞれです。定期的に保障内容を見直し、いざというときに役に立つかを確認することが大切です。そのうえで、新しい保険に加入し直したり、不要な保険を解約したりすればよいでしょう。
この記事を書いた人
松田聡子
ファイナンシャルプランナー
群馬FP事務所代表
明治大学卒業後、ITエンジニアとして証券会社のシステムの設計開発に従事。顧客の業務を勉強するなかで資産運用に興味を持ち、投資を始める。その後、国内生保での法人コンサル営業に転身。本格的にFP資格取得を目指す。2007年より独立系FPとして開業。当初は主に企業型確定拠出年金講師やFP資格受験講座の講師として活動。現在はマネーサイトへの執筆と個人や法人へのコンサルティングが活動の中心。FPとしての得意分野は保険・資産運用・年金・相続など。70年代の洋楽ロックとヨーロッパサッカーの愛好家。
保有資格:日本FP会認定CFP・DCアドバイザー・証券外務員二種