老後

おひとりさまの老後はいくら必要?老後資金の貯め方を解説

ここ数年で「おひとりさま」という言葉を耳にすることが多くなりました。本来は「一人暮らしの人」という意味ですが、実際には未婚の女性を指すことが一般的です。女性は男性に比べて長生きです。ずっと独身で過ごす場合、老後のお金が心配な人も多いでしょう。この記事では老後を一人で過ごす可能性のある女性が、準備すべき目標額とその貯め方について解説します。

60歳以上の女性が必要な生活費と不足するお金

60歳以上の女性が必要な生活費と不足するお金
女性が老後、誰にも頼らずに生活するにはいくら準備すればいいのでしょうか。ここでは、60歳以上の独身女性の平均的な生活費と受け取る年金額を紹介します。

60歳以上独身世帯の生活費はいくら?

まずは、女性が老後に一人で生活する場合に必要な生活費の目安を見ていきましょう。以下は、総務省の家計調査の2020年(令和2年)のデータから、世帯主が60歳以上女性の単身世帯の家計支出の表です。

食料費 3万6,270円
住居費 1万3,478円
水道・光熱費 1万3,323円
家具・家事製品費 6,481円
被服費 4,213円
保健・医療費 9,019円
交通・通信費 1万2,500円
教養・娯楽費費 1万2,810円
その他 3万5,266円
生活費合計 14万3,359円

「その他」の支出の主なものは交際費で、1万8,647円でした。

老後を賃貸住宅で生活する場合

「住居費」の1万3,478円は、持ち家と賃貸を合計した平均額です。この統計の持ち家率は85.1%ですので、多くの人が老後を持ち家で過ごすことがわかります。老後を賃貸住宅で生活する場合は、家賃を含めたシミュレーションが必要です。ちなみに総務省の2018年(平成30年)の住宅・土地統計調査によると、1カ月当たり家賃の平均は 5万5,675 円でした。お住いの地域の家賃相場を調べると、より精度の高い試算ができるでしょう。

公的年金は65歳まで受け取れない

1961年(昭和36年)4月2日以降に生まれた男性と1966年(昭和41年)4月2日以降に生まれた女性は、公的年金の受け取りは65歳からです。国民年金も厚生年金も、60歳から64歳の間に受け取る「繰り上げ受給」ができます。しかし、繰り上げ1カ月あたり0.5%受給額がカットされ、カットされた年金を一生受け取らなければなりません。60歳以降働かないで公的年金を65歳から受け取る場合、年金が出るまでの生活費を全額準備することになります。

女性の厚生年金の受給額は?

では、65歳で受け取れる年金はいくらでしょうか?厚生労働省の「2019年(令和元年)度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の65歳以上の女性の平均年金月額は10万8,813円です。また、自営業やフリーランスの人は国民年金しか受けられません。2021年(令和3年)の国民年金の満額の受給額(保険料を40年間納めた場合)は、月額で6万5,075円です。いずれの場合もねんきん定期便やねんきんネットで、自分が受給する年金の見込額を調べておきましょう。

年金では不足する金額は?

受け取る年金から毎月の生活費を差し引いた金額がマイナスならば、公的年金だけでは生活できないということです。上述した生活費14万3,359円からの不足額は、厚生年金・国民年金でそれぞれ次のようになります。

  • 厚生年金:▲3万4,546円(10万8,813円-14万3,359円)
  • 国民年金:▲7万8,284円(6万5,075円-14万3,359円)

2019年(令和元年)に話題になった老後2,000万円問題では、夫婦世帯の老後30年間の不足額を試算していました。そこで、ここでも30年分で試算することにします。60歳から65歳まで働かない場合に準備すべき老後資金は、860万1,540円(14万3,359円×12カ月×5年)です。60歳までに準備する老後資金の目安は以下のとおりです。

65歳から90歳までの必要額 60歳から90歳までの必要額
厚生年金のある人 1,036万3,800円(3万4,546円×12カ月×25年) 1,896万5,340円(860万1,540円+1,036万3,800円)
国民年金だけの人 2,348万5,200円(7万8,284円×12カ月×25年) 3,208万6,740円(860万1,540円+2,348万5,200円)

不足するお金を補うために

不足するお金を補うために
大まかな老後資金の目標額がわかったところで、毎月いくら貯めたらいいかを試算してみましょう。毎月貯めなくてはならないお金がはっきりわかれば、準備をスタートできます。

年齢別の毎月の老後資金貯蓄額

ここでは、準備を始める年齢ごとに毎月の貯蓄額を紹介します。利息などは考慮せず、必要額を準備期間で割った金額です。

準備を始める年齢 厚生年金のある人 国民年金だけの人
30歳 5万2,681円 8万9,129円
35歳 6万3,217円 10万6,955円
40歳 7万9,022円 13万3,694円
45歳 10万5,363円 17万8,259円
50歳 15万8,044円 26万7,389円
55歳 31万6,089円 53万4,779円

目標額が貯められそうもない場合どうすればいい?

あくまで単純計算ですが、老後に向けてまとまったお金を準備するには、相当な準備が必要なことがわかります。また、早く準備すれば毎月の負担も少なくすみます。もし、目標達成が難しい場合はどうすればいいでしょうか。

働く年齢を延ばす

選択肢の1つは、働いて収入を得る年齢を延ばすことです。寿命が延びていることは、健康で働ける年齢も伸びていることを意味します。厚生労働省の「令和2年簡易生命表」によると男の平均寿命は 81.64歳、女の平均寿命は 87.74歳です。60歳定年制が努力義務になったのが1986年(昭和61年)で、1985年(昭和60年)の女性の平均寿命が80.48歳です。その頃から約7年も長生きになったのです。たとえば、年金の受給が始まる65歳までは働いた収入で生活すれば、そこまでの生活費の約860万円は準備する必要はありません。また、60歳までと同程度の収入を得られれば、老後資金の貯蓄も可能です。

増やす運用を取り入れる

上記の表は、ゼロ金利で貯蓄をした場合とほぼ同じ金額です。もし、増やす運用を取り入れれば、毎月の積立額はより少なくすみます。具体的な方法については、後述します。

お金のかからない生活をする

これまで紹介したデータはあくまで平均値なので、より支出の少ない生活もできます。住む地域やライフスタイルは人それぞれだからです。「ゆとりある生活をしたい」という人であれば多くの資金が必要です。しかし、田舎で質素に生活すれば、もっと少ない生活費で暮らせるかもしれません。自分が理想とする生活にかかるお金を考えてみましょう。

おひとりさまの老後資金の貯め方

おひとりさまの老後資金の貯め方
老後資金の準備は、長距離を走り続けるマラソンのようなものです。目標に向かってお金を貯めるには、節約とお金を増やすことが必要です。

節約で効果的なのは固定費の見直し

ストレスがなくて効果的な節約は、固定費の見直しです。家計費のうち食費や光熱費は変動費で、通信費や保険料は固定費に分類されます。固定費の見直しは、見直しの効果がずっと続きます。たとえば、毎月の保険料を5,000円削減できたとすれば、見直してからの保険料はがんばらなくても上がることはありません。もちろん、変動費の見直しも効果は見込めますが、手を付けるなら固定費を先にするとよいでしょう。保険料の他に、「スマートフォンを格安SIMに変える」「利用していない月額課金のサービスを解約する」などが効果的です。

先取り貯蓄を習慣づける

毎月の給料をもらったら、まずは決まった金額を貯蓄してしまいます。限られた収入をやりくりして残った金額を貯蓄しようとすると、うまくいかない人は少なくありません。たとえば、給与天引きで決まった金額を自動的に貯蓄できれば、無理なくお金を貯められます。貯蓄型の保険などを活用するのも1つの方法です。貯蓄をするのが苦手な人は、自動的にお金が貯まる方法を活用しましょう。

健康を維持する

他に頼る人のいない独身者であれば、健康でいることは特に重要です。がんなどの大きな病気になれば多額の治療費がかかり、働いて収入を得ることも難しくなるからです。大きな病気にかかって治療が長期化すると、仕事やお金の人生設計を変更せざるをえません。また、介護が必要になれば、施設などの入居費もかかります。生きがいの面だけでなく、健康は最大の節約になるのです。

インフレを意識する

老後の資金は長期にわたって準備するため、インフレへの対応が必要です。インフレとはお金の価値が下がってモノの価値が上がることです。2000年(平成12年)10月のガソリン1L当たりの小売価格(東京都区部)は108円で、2021年(令和3年)10月は163円です(総務省小売物価統計調査より)。この結果は、1年に2%近いインフレが起き続けた計算になります。1年に2%のインフレが10年続くと、10年後の1,000万円の価値は約820万円に目減りします。ほぼゼロ金利の預貯金では、準備した老後資金が目減りしてしまうかもしれません。できる範囲で増やすことを取り入れましょう。

老後資金を貯める具体的な方法

老後資金準備にはインフレ対応が必要です。時間を味方に付ければリスクのある運用で資産形成ができます。老後資金準備に適した方法を紹介します。

iDeCo(個人型確定拠出年金)

子どもの教育費のかからない独身の人には、iDeCo(個人型確定拠出年金)は老後資金準備の有力な選択肢です。iDeCoとは公的年金の上乗せになる制度で、個人が掛金を支払い、運用も自分で行います。運用は金融機関ごとに用意された定期預金や投資信託などを組み合わせて行い、その成果によって年金原資が決まる仕組みです。iDeCoには掛金が全額所得控除になるなどの税制優遇があり、老後資金準備のためには非常にメリットのある制度です。ただし、60歳まで年金資産の引き出しができないため、家計を見直して無理のない掛金を設定する必要があります。

つみたてNISA

つみたてNISAは、積み立てに特化した少額非課税制度です。少額非課税制度は投資の普及のために、NISA口座からの運用益が非課税になる仕組みです。つみたてNISAは一人あたり毎年40万円(月額3万3,000円)の非課税限度額があり、最長20年間積み立てができます。投資対象は主に投資信託で、運用で得た分配金や値上がり益には税金がかかりません(通常、投資信託の運用益には20.315%の所得税・住民税がかかります)。つみたてNISAは途中の引き出しも自由にできます。元本保証ではありませんが、投資対象を金融庁が絞り込むなど、初心者でも利用しやすい工夫がされている制度です。

個人年金保険

老後資金準備の定番といえば、個人年金保険ではないでしょうか。個人年金保険は保険料を年金のために積み立て、満期後に年金として受け取る仕組みです。条件を満たすと生命保険料控除とは別枠で、個人年金保険料控除の対象になります。最近の超低金利から円建ての個人年金は貯蓄性が低下し、外貨建てや変額の個人年金が注目されています。

まとめ

「おひとりさま」の老後は健康で経済的な不安がなければ、誰にも気兼ねせずに好きなことができます。お金の不安をなくすためには、早いうちからの準備が大切です。目標とする金額を決めて、コツコツと資産を作りましょう。特に自営業の人は増やす運用なども取り入れた、効率的な資金準備が必要です。無理のない範囲でリスクを取っていきましょう。

この記事を書いた人

松田聡子
ファイナンシャルプランナー

群馬FP事務所代表

明治大学卒業後、ITエンジニアとして証券会社のシステムの設計開発に従事。顧客の業務を勉強するなかで資産運用に興味を持ち、投資を始める。その後、国内生保での法人コンサル営業に転身。本格的にFP資格取得を目指す。2007年より独立系FPとして開業。当初は主に企業型確定拠出年金講師やFP資格受験講座の講師として活動。現在はマネーサイトへの執筆と個人や法人へのコンサルティングが活動の中心。FPとしての得意分野は保険・資産運用・年金・相続など。70年代の洋楽ロックとヨーロッパサッカーの愛好家。

保有資格:日本FP会認定CFP・DCアドバイザー・証券外務員二種

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